これは、私が幼稚園に入って1年目の頃の話です。
主人公は、私よりひとつ先輩のさとみ先生。いつも高い位置でお団子を作っていて、元気いっぱいの先生でした。

卒園シーズン、年中クラスでは年長さんに贈る歌の練習をしていました。
ある日、体育館で4クラス合同の練習があったのですが、さとみ先生の受け持つゆり組さんだけは、どうも歌い出しの声がそろいません。
全体を見ていた先生が、
「ゆり組さん、ちょっと元気ないなぁ」
と声をかけ、最初からやり直すことになりました。

何度やっても、歌い出しがそろわないゆり組さん。
すると突然、さとみ先生が大きな声で伴奏を歌い始めたのです。
そして、伴奏がおわると、
「さん、はい!!!」と合図。
その瞬間、ゆり組さんは、
「さ~くらさいたら、一年生~」
と元気よく歌い始めたのです。
その後も、さとみ先生は身振りや手拍子を交えながら、元気いっぱいに子どもたちと歌い続けていました。
体育館には、ゆり組さんの元気な歌声と、さとみ先生の口伴奏が響いていました。

どうしてゆり組さんだけ歌い出せなかったのか、理由がわからないまま合同練習は終了しました。
それから、数日後。
帰りの会のあと、保護者の方と話していたときのことです。
「上の子、去年さとみ先生のクラスだったんですけど、先生、伴奏を口で歌うから、ピアノだと分からないって」
と、笑いながら話してくれました。
さらに、別の保護者が、
「そうそう!ウチも言ってる。伴奏だけじゃなくて、間奏も全部歌うらしいよ。かわいいよねぇ」
そんな話で、保護者の方たちも楽しそうに盛り上がっていました。
どうやら、さとみ先生の口伴奏は、保護者の間でもちょっとした有名な話だったようです。

この話しを聞き、私はようやく合同練習の時の様子を思い出しました。
あの日、ゆり組さんは元気がなかったのではなく、“いつもの入り方”がなくて戸惑っていたのです。

ピアノは苦手でも、子どもたちのことが大好きで、いつも元気いっぱいのさとみ先生。
今もどこかで、元気いっぱいに伴奏を歌っているのかなぁ~。
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